ポストモダンデザインとは何か?特徴と作例を分かりやすく解説 - 奇想の美術・デザイン研究所

現代より一昔前のことを「近代」と言いますが、1970年代後半ごろまでの近代デザインは「モダンデザイン」と呼ばれていました。しかし1980年代になると「近代の後」のデザインという意味で「ポストモダンデザイン」という言葉が盛んに用いられるようになりました。(postは「〜の後の」の意)

モダンデザインやポストモダンデザインとはいったいどんなデザインなのか、聞き慣れない方は疑問に思うことでしょう。わかりやすく言うと、モダンデザインは使い勝手や生産のしやすさのみを追求したシンプルなデザインとなっていますが、ポストモダンデザインは一見すると商品の用途とは無関係な、奇想天外な外観が用いられている点が大きな特徴です。(モダンデザインについては、こちらの記事で詳しく解説しています)

本記事では、プロダクトデザインにおける「ユニークな道具(ボードリヤールの「ガジェット」)」と、建築デザインにおける「ポストモダン建築」「ディズニーランダゼイション」に焦点を当てて、それぞれどんなデザインをしているのかを具体例を挙げながら詳しく見ていきます。
プロダクトにおけるポストモダンデザインにおいては、「ガジェット」と呼ばれるユニークな道具が多数生まれました。ここで言う「ガジェット」とは、フランスの哲学者であったジャン・ボードリヤール(1929-2007)が著書『消費社会の神話と構造』において、「商品の本来の用途とは無関係な装飾が施されたモノ」を指して使った言葉です。現在ではガジェットといえば便利な小型電子機器のことですが、かつてはこのような意味もあったのです。
1980年代に生まれたさまざまなガジェットを掲載した『世紀末ビョーキ文明:ガジェット図鑑』という本も当時発売されており、「イカや魚の形をした筆記具」「地球儀や小判の形をしたイヤリング」などがその例として挙げられています。
イカや魚の形をした筆記具

イカや魚の形をした筆記具

画像出典:世紀末ビョーキ文明 ガジェット図鑑|narda

地球儀や小判の形をしたイヤリング

地球儀や小判の形をしたイヤリング

画像出典:世紀末ビョーキ文明 ガジェット図鑑|narda

普通の筆記具やイヤリングがモダンデザイン、上記の筆記具やイヤリングがポストモダンデザインと考えると分かりやすいでしょう。「世紀末ビョーキ文明」というタイトルのとおり、当時は「ガジェット」は本来の用途とは無関係な装飾が施された病的なデザインと捉えられていました。しかし今ではヴィレッジヴァンガードなどでも発売されており、おもしろ雑貨やジョークグッズとして人気があります。人々の好みやニーズは多様ですから、このようなデザインがあっても良いのです。
上記のプロダクト以外にも、1980年代にイタリアで活躍した、エットレ・ソットサス(1917-2007)率いるデザイナー集団「メンフィス」がデザインした家具もガジェットの一例。「カールトン」はもっとも有名なポストモダンデザインの家具です。
メンフィスのカールトン

カールトン(1981)

画像出典:タブルーム

このほか、メンフィスがデザインした家具には「アショーカ・テーブルランプ」などもあります。
メンフィスのアショーカ・テーブルランプ

アショーカ・テーブルランプ(1981)

画像出典:SSENSE

また現在では「Jump From Paper Bag」や、とあるレストランの看板日時計のようなユニークなプロダクトもあり、これもガジェットの系譜と言えるでしょう。
「Jump From Paper Bag」は絵に描いた2次元イラストに見えるが実際は3次元のバッグになっているという、トリックアートにも通じるトリッキーなデザインのプロダクトです。
Jump From Paper Bag

Jump From Paper Bag

画像出典:Amazon

また、レストランの看板日時計はスプーンの影が時計の針になっており、1は「イチゴ」、2は「ニンジン」、3は「さんま」…というように数字の語呂合わせとなるモチーフが配置されています。11は2+9なので「肉」、12は8+4なので「箸」となっており、非常に洒落が効いています。
レストランの看板日時計

画像出典:キッズシリーズ 日時計Ⅱ sundial2

「ガジェット」は本来の用途とはかけ離れた遊戯的な要素が付加価値となり、商品としてのオリジナリティを発揮します。このことを踏まえて拡大解釈すれば、現在の携帯電話に通話機能以外の機能が多数備わっているのも、ガジェットの系譜と考えることができます。
そして「ガジェット」には「遊び」の要素が含まれていますが、これは決して無駄な装飾ではありません。「遊び」はあらゆる面において必要不可欠なものです。分かりやすい例を挙げると、歯車同士が噛み合っている部分には隙間があり、その隙間のことを「遊び」と言います。この隙間=遊びがあることで、歯車が正常に回っています。
それと同じように、デザインにも遊びがあるからこそ、生活が彩られるのです。
【参考】
ここで紹介したガジェットは「キッチュ」と呼ばれることもあります。
キッチュとは「俗悪・低俗・悪趣味」などを意味する言葉であり、かつては高級なブランド品などの洒落たものを持つことが「良い趣味」で、ガジェットのような玩具っぽいものを持つことは「悪い趣味」と捉えられる向きがありました。
しかし、今日ではキッチュは1つの美意識として定着しており、キッチュが「悪い趣味」であるという見方には再考の余地があります。

※美術の分野でもキッチュな作品があります。詳しくはキッチュなアートの記事を参照。
【関連書籍】佐野山寛太『世紀末ビョーキ文明:ガジェット図鑑』 / ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』
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建築におけるポストモダンデザインの1つ目が、文字どおりポストモダン建築と呼ばれるデザインです。ポストモダン建築の例としては、水戸芸術館のシンボルタワー(茨城県)やプラハのダンシング・ハウスが挙げられます。ポストモダン建築は、これらの建築物のように、建物として成り立つ構造を守った上で敢えて形態を崩している点が特徴的です。
水戸芸術館のシンボルタワー

水戸芸術館のシンボルタワー

画像出典:美しき日本 全国観光資源台帳

プラハのダンシング・ハウス

プラハのダンシング・ハウス

画像出典:いしらべ

対してモダンデザインの建築は、ドイツのファグス工場のように整った形をしています。
ドイツのファグス工場

ドイツのファグス工場

画像出典:Wikipedia

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建築におけるポストモダンデザインの2つ目は、ポストモダン建築と同時期に流行した、ディズニーランダゼイションという建築デザインです。ディズニーランダゼイションとは「ディズニーランド化」という意味で、1980年代以降に生まれた、ディズニーランドのようにコミカルで過剰に装飾された建築物のデザインを指します。中川理が著書『偽装するニッポン:公共施設のディズニーランダゼイション』の中で命名しました。ポストモダン建築と同じような本質を持っていますが、厳密には少々意味合いが異なります。ディズニーランダゼイションは、以下の例のように獅子や城などのモチーフを直接引用している点や、人が住む建築物以外にも用いられている点が特徴的です。
常陸風土記の丘の展望台

常陸風土記の丘の展望台(茨城県)

画像出典:Wikipedia

岡崎公園の電話ボックス

岡崎公園の電話ボックス(愛知県)

画像出典:Wikipedia

こうしたデザインは突飛すぎるゆえに浮いてしまい、地域の景観の調和を損ねてしまうという批判もなされています。詳しい議論は、中川理の『偽装するニッポン:公共施設のディズニーランダゼイション』を参照。
【関連書籍】中川理『偽装するニッポン:公共施設のディズニーランダゼイション』
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