トリックアートの種類と作品例 - 美術・デザインにおける遊びの発想法
トリックアートとはいわゆる騙し絵のことで、フランス語で「眼を騙す」を意味する「トロンプ・ルイユ」とも呼ばれます。
トリックアートの種類は多岐に渡り、本記事ではそれぞれの絵画について作例を挙げながら、トリックアート(騙し絵,トロンプ・ルイユ)とはどのような特徴を持つ作品なのかを詳しく解説していきます。
次の作品は、トリックアートの有名作品です。
スペインの画家ペレ・ボレル・デル・カソ(1835-1910)の「非難からの逃走」のような飛び出す絵や、
アメリカの画家ジョン・ハバール(1856-1933)の「小銭」のように思わず本物と見間違えてしまうほど緻密でリアルに描かれた絵、
またオランダの版画家マウリッツ・エッシャー(1898-1972)のだまし絵「昼と夜」「滝」など。
エッシャーの「滝」は目の錯覚を利用したトリックアートであり、よくよく見てみると現実にはあり得ない(実現不可能な)構造になっていることが分かります。
このほか、次の4種類のトリックアートもあります。
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「寄せ絵」とは「はめ絵」とも言い、ある物を集めて1つの形になるように構成したトリックアートのことです。イタリアの画家であったジュゼッペ・アルチンボルド(1526-1593)や、江戸時代の浮世絵師であった歌川国芳(1798-1861)の作品が有名です。
たとえばアルチンボルドの「夏」という作品は野菜や果物を寄せ集めて人間の顔になるように構成、「司書」という作品は本を寄せ集めて人間の顔になるように構成しています。
日本でも同じようなアイデアの作品が見られ、歌川国芳の「人をばかにした人だ」などは人体を寄せ集めて人の顔になるように構成しています。
上下絵とは「逆さ絵」とも言い、上下を反転させても別のイメージとして見えるトリックアートのことです。同じくジュゼッペ・アルチンボルドと歌川国芳の作品が有名です。
たとえばアルチンボルドの「庭師」は、片方は鍋の中に野菜を詰め込んだ絵ですが、上下反転させると人の顔に見えます。
また歌川国芳の「両面相 だるま げどふ とくさかり 伊久」は、上下反転させても若干表情などが変わっただけで、同じように人の顔に見えるという作品です。
隠し絵とは、1つの絵の中に、注意して見なければ分からない他の絵を描き込んであるトリックアートのことです。「さがし絵」や「ダブルイメージ」とも言います。デンマークの心理学者であったエドガー・ルビン (1886-1951)が考案した「ルビンの壺」や、19世紀から存在する作者不詳の「妻と義母」などがその代表例です。
たとえば「ルビンの壺」は、大きな壺にも見えるし、向き合った2人の顔にも見えるというトリックアートになっています。
また「妻と義母」は「娘と老婆」とも呼ばれる作品で、その名のとおり「奥に顔を向けている若い娘」と「横顔を見せている老婆」の2つに捉えることができます。(若い娘にしか見えない方はネックレスの部分を口として認識、老婆にしか見えない方は口の部分をネックレスとして認識してみてください)
「マジックリアリズム」とは、絵画においては現実の世界と非現実の世界を緻密な描写で同時に描き出し、両方とも現実であるかのように錯覚させる表現手法のことです。「魔術的リアリズム」「幻想的リアリズム」「魔法的現実主義」などとも呼ばれます。カナダの画家であったロブ・ゴンサルヴェス(1959-2017)のトリックアート作品が有名です。
1つの絵の中に現実と非現実の2つの世界が混在している、非常に幻想的な光景です。あえて現実と非現実を混在させてリアルに描くことによって空想も現実の一種のように錯覚させ、もう1つの現実を創り出しています。
トリックアートに似たものとして「錯視」がありますが、
錯視とはあくまで「視覚における錯覚」という現象そのものを表す言葉であり、「トリックアート」とは意味合いが違います。トリックアートの中には錯視を利用した作品もある、ということです。
錯視の種類としては、たとえば以下に示す
「エビングハウス錯視」や
「ミュラー・リヤー錯視」などが挙げられます。これらの図はあくまで錯視を説明するためのものなので、トリックアートとしての「作品」ではありません。
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2つのオレンジ色の円はまったく同じ大きさですが、周囲の円との比較で左側のほうが小さく見えます。ドイツの心理学者であったヘルマン・エビングハウス(1850-1909)が発見したため、このように名付けられました。
2つの赤線はまったく同じ長さですが、両端に内向きの矢羽を付けた赤線よりも、両端に外向きの矢羽を付けた赤線のほうが長く見えます。ドイツの心理学者であったミュラー・リヤー(1857-1916)が発見したため、このように名付けられました。
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