田名網敬一の絵には、以下のような作例が挙げられます。見るからに奇想天外で奇態な絵で、好奇心を掻き立てられる作品です。
田名網敬一「夜桜の散る宵闇」(2014)
画像出典:田名網敬一の新作個展 3メートルの大作を公開
田名網敬一「彼岸の空間と此岸の空間」(2016)
画像出典:田名網敬一(NANZUKA)|美術手帖
田名網敬一「笑う蜘蛛K」(2017)
画像出典:田名網敬一(NANZUKA)|美術手帖
田名網敬一の作品は「異世界」が一貫して大きなテーマとなっており、自らの記憶の中にあるイメージや夢で見たイメージを組み合わせて絵の中に描き出しています。その中に、彼が見たポップアートやサイケデリックアートのイメージがあるようです。
彼は、誰もが心の中に持っている「この世には存在しないもう1つの世界を見たい」という欲求が強く、それを絵の中に表現していると下記の動画でコメントしています。
こうした空想の世界を表現する手法としては
シュルレアリスムにおけるデペイズマンを挙げることもできますが、田名網敬一の作品においては次の章で紹介する「ブルーノ・ムナーリのファンタジア」の考え方が当てはまるでしょう。
田名網敬一が実践していることは絵の中に新たな世界観を構築することであり、その手法を説明するために
ブルーノ・ムナーリの「ファンタジア」の考え方を引用できます。
イタリアの芸術家であったブルーノ・ムナーリ(1907-1998)は著書
『ファンタジア』の中で、芸術作品において新たな世界観を構築する能力のことを「ファンタジア」と呼びました。そして、「ファンタジア」には次の3つのパターンがあると述べています。
(1)対立・逆転
場所・大きさ・色彩・機能・素材などの要素を対立・逆転させる。
(2)増殖
怪物のように目や手などの要素を増殖させる。
(3)異なる要素の融合
人体の一部を動物の肢体にするといったように異なる要素を融合させる。
田名網敬一の作品を見てみると、本来あり得ない場所に飛行機が飛んでいたり、目や手足が増殖したキャラクターが描かれていたり、人体の一部が奇怪なモンスターになっていたりします。このような手法で、絵の中に「もう1つの世界」を描き出しているのです。
なお、田名網敬一の著書
『100米(メートル)の観光:情報デザインの発想法』の中では、夢や記憶をモンタージュすること,心の中の楽園・遊園地のような世界を表現すること,自らの趣味嗜好に忠実であることなどが発想のポイントとして解説されており、創作のヒントになります。実際、田名網敬一の作品も夢や記憶をモンタージュし、心の中にある趣味の楽園(遊園地)をビジュアル化したものです。なおこの発想法は、たとえば
PLiCyのゲーム制作など、絵以外の作品でも活用できます。
また彼の伝記である
『幻覚より奇なり』も田名網作品を読み解く鍵になり、非常に読み応えがあるのでおすすめです。(『幻覚より奇なり』というタイトルは、田名網敬一の作品がサイケデリックアートで表現されている幻覚よりも奇妙であることを表しています)