デペイズマン(仏: Dépaysement)とはフランス語で「異なった環境に置くこと」を意味する言葉であり、シュルレアリスムの絵画においても用いられた技法です。主にベルギー出身のシュルレアリスム画家であったルネ・マグリット(1898-1967)が使用しており、デペイズマンは次の5つの種類に分類できます。
場所のデペイズマンは、
あるものをそれが本来あるはずがない場所に置くことです。たとえばルネ・マグリットの「ピレネーの城」では、大きな岩に乗った城が海上で宙に浮いています。
なお、場所のデペイズマンを用いた現代の作例(シュルレアリスムの系譜)として、アメリカの写真家であるサンディ・スコグランド(1946-)の「金魚の復讐」が挙げられます。
部屋全体を水槽のように見せるためのセットを用意して撮影した、独特の写真作品です。
大きさのデペイズマンは、
あるものを実際よりも過剰に大きく、もしくは小さく描くことです。たとえばルネ・マグリットの「リスニング・ルーム」では、巨大なリンゴが部屋いっぱいに置かれています。
また、シュルレアリスム運動に参加していたアメリカ出身の写真家マン・レイ(1890-1976)は、マネキンとガラス玉を用いて過剰に大きい涙を写真で表現しています。これも大きさのデペイズマンを用いた作品と言えるでしょう。
よく見てみれば現実にはあり得ないサイズの涙であると分かるのですが、写真は現実を映し出したものであるという先入観があるため、一見しただけでは気付かない人も多いのではないでしょうか。
時間のデペイズマンは、
1つの絵の中に異なる時間を混在させることです。たとえばルネ・マグリットの「光の帝国」では、空は昼なのに水面は夜の状態になっています。
材質のデペイズマンは、
あるものの素材をまったく異質なものに置きかえることです。つまり、形はそのままで素材のみを変えるということです。たとえばルネ・マグリットの「旅の思い出」には、石でできた巨大なリンゴと梨が描かれています。(この絵には大きさのデペイズマンも混在)
ルネ・マグリットの作品以外にも、スペイン出身の画家であったサルバドール・ダリ(1904-1989)の「記憶の固執」や、日本のイラストレーターである城谷俊也(しろたにとしや)氏のイラストなどが材質のデペイズマンの作例として挙げられます。
「記憶の固執」は、溶けて柔らかくなった時計に注目。これも本来は固いものである時計の材質を柔らかい材質に置き換えた、デペイズマンの一例です。
また、城谷氏のイラストは、メンダコやチョウチンアンコウといった海洋生物を機械化して描いたもの。これも生き物の材質を機械に変える“材質のデペイズマン”であり、シュルレアリスムの系譜と言えます。
城谷氏のホームページは、
こちら。他にもいろいろな作品が掲載されています。
人体のデペイズマンは、
人体の一部を別の生き物に変えることです。たとえばルネ・マグリットの「共同発明」には、下半身が人間の体なのに上半身だけ魚になった生き物が描かれています。
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デペイズマンの技法は絵画だけでなく、立体作品にも用いられることがあります。
たとえば、日本のファッションデザイナーであった熊谷登喜夫(くまがいときお、1947-1987)の「食べる靴」がその例として挙げられます。
この作品は、見てのとおり靴の素材を肉やお菓子にするという「材質のデペイズマン」が用いられた、シュルレアリスムの系譜と言える作品です。