ブルーノ・ムナーリの『ナンセンスの機械』- 奇想の美術・デザイン研究所

ファンタジックな機械といえば、ドラえもんのひみつ道具を思い浮かべる人は多いでしょう。常識を打ち破り、どんな突飛な願望も実現させてくれるドラえもんの道具は、夢にあふれています。『ドラえもん』という漫画・アニメ作品は、人々に夢を与える素晴らしいデザインです。
しかし現実問題、機械は今の科学技術で実現可能な範囲でしか製造することができません。「こんな機械があったらいいな」とは思っても、技術的に実現可能な範囲でしか造れないのです。
そんな中、ブルーノ・ムナーリという芸術家は、機能こそナンセンスで商品デザインとしては成り立たないものの、今の科学技術で実現可能な範囲でファンタジー性を生み出した『ナンセンスの機械』という美術作品を生み出しました。
イタリアの芸術家であったブルーノ・ムナーリ(1907-1998)は、友人を笑わせるという目的のためだけに、『ナンセンスの機械』という突飛な仕掛けの機械を集めたアートブックを刊行しました。
オリジナルは1942年にイタリアで刊行された『ムナーリの機械』で、『ナンセンスの機械』は筑摩書房より1979年に発行された日本語初訳版です。たとえば、以下の「目覚まし時計をおとなしくさせる機械」のようなアイデアが掲載されています。
目覚まし時計をおとなしくさせる機械

目覚まし時計をおとなしくさせる機械

画像出典:ブルーノ・ムナーリ『ナンセンスの機械』

この機械の仕掛けは、こうです。
さわやかな目覚めのためには、うるさいベルの音で叩き起こされるのは気に食わないだろう。

そこでまず初めに、目覚まし時計のベルを取り外して、上等の乾燥した海綿と取りかえる。

次に、時計の短針〔1〕を切れ味のよいペンナイフの刃のようによく研いでおく。

起きたい時間に合わせて張っておいた糸〔2〕にペンナイフが触れると、糸が切れる。

糸には耐火煉瓦〔3〕を吊るすが、これには白い不透明なニスを塗り、できれば二色のロープをかけておく。

糸が切れると、煉瓦は風笛〔4〕の上に落ち、押しつぶす。

この風笛からジェット気流が飛びだし、糊をきかせた11枚のダチョウの羽で作った羽輪〔5〕にぶつかり、回転させる。

羽輪が回転すると、黒い滑車が糸〔6〕を巻きつける。

糸がマッチ箱の固定個所〔7〕からマッチ棒を1本引き抜くと、火がついて栗の重炭酸塩の小型ランプ〔8〕に燃えうつる。

重炭酸塩はただちに緑色の炎を上げ、大きなコーヒーポット〔9〕を温め、蒸気が爽やかな音を鳴らす。
まさに、あまりにも突飛すぎるナンセンスな機械。しかし、その突飛さゆえに思わず笑ってしまうアイデアです。
書籍には他にも多くのアイデアが掲載されているので、興味のある方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
【関連書籍】ブルーノ・ムナーリ『ナンセンスの機械』
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『ナンセンスの機械』に関連する作品として、日本のアート・ユニットである明和電機(めいわでんき)のナンセンスマシーンが挙げられます。(公式サイトはこちら
明和電機は以下のようなナンセンスなマシーンを、紙面上ではなく実物として制作しています。

「グラスカープ」

グラスカープ

グラスカープ(1994)

画像出典:明和電機

本体を回転させて演奏する、コンパクトな鯉型のグラスハーブ。

「魚立琴」

魚立琴

魚立琴(1994)

画像出典:明和電機

「なたてごと」と読む魚型の電動ハーブ。頭部が回転し、ヒレが閉じると胴体の弦を弾く。

「プチプチパンチ」

プチプチパンチ

プチプチパンチ(1998)

画像出典:明和電機

エアキャップを連続的に潰すための装置。プチプチと鳴る音が、ストレスを一気に解消してくれる。
ブルーノ・ムナーリに影響を受けているのかは分かりませんが、『ナンセンスの機械』を自分なりにアレンジして具現化したかのような、非常にユーモアのある作品です。
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