江戸時代の奇想の画家(奇想派)- 奇想の美術・デザイン研究所

日本美術史研究者の辻惟雄(つじのぶお、1932-)は、1970年に出版した著作『奇想の系譜』の中で、江戸時代の画家である岩佐又兵衛,狩野山雪,伊藤若冲,曾我蕭白,長沢蘆雪,歌川国芳の6人を「奇想の画家」と称しました。「奇想派」とも呼ばれています。「奇想」は「因襲の殻を打ち破る、自由で斬新な発想」を意味するとされており、たとえば曾我蕭白の「群仙図屏風」や歌川国芳の「相馬の古内裏(そうまのふるだいり)」のような作例が挙げられます。
曾我蕭白「群仙図屏風」右隻

曾我蕭白「群仙図屏風」右隻(1764)

画像出典:artscape(アートスケープ)

曾我蕭白「群仙図屏風」左隻

曾我蕭白「群仙図屏風」左隻(1764)

画像出典:artscape(アートスケープ)

歌川国芳「相馬の古内裏」

歌川国芳「相馬の古内裏」(1845-46)

画像出典:ゴトー・マン

まるで妖怪・お化けのような思わずギョッとしてしまうモチーフが描かれており、見るからにエキセントリックな絵画作品です。
「奇想」は「奇想天外」の同義語であり、辞書的には「思いもよらない奇抜な考え」を意味する言葉です。当サイトではさまざまな「奇想の美術・デザイン」を紹介していますが、美術史的には辻惟雄が提唱した「奇想の画家」がルーツになっています。
【参考】
美術史における「奇想」という言葉は、1700年代の西洋絵画における「奇想画」にも使われています。「奇想画」とはイタリア語で「カプリッチョ(capriccio)」と呼ばれ、実在するものと空想上のものを組み合わせた都市風景画を意味する語です。
作例の一つとして、イタリアの画家であったフランチェスコ・グアルディ(1712-1793)の絵画「小さな広場と建物のあるカプリッチョ」が挙げられます。この作品は、広場は実在する風景であるものの、そこに描かれている建物は架空のものとなっています。
小さな広場と建物のあるカプリッチョ

フランチェスコ・グアルディ「小さな広場と建物のあるカプリッチョ」(1759)

画像出典:東京富士美術館

ただ、こうした作品は旧来「カプリッチョ(capriccio)」と呼ばれており日本語訳すると「奇想画」になったというだけで、美術史において最初に「奇想」という言葉の定義付けをしたのはあくまで辻惟雄です。
【関連書籍】辻惟雄『奇想の系譜』
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